君だけの星へ
俺たちが初めて会話をしたのは、高校2年生の初夏だった。



「あれっ、となり桐生くん?」



最初っから、彼女は人懐っこく話しかけてきて。

俺は少しだけ不機嫌に、そうだけど、呟いた。

そのときの席替えは、前から2列めというなんともいえない位置で。

1番後ろの席から移動してきた俺としては、かなり不服な結果だったのだ。



「あ、私の名前知ってる? 高柳 星佳」

「……知ってる」

「へぇ、まだクラス替えから1ヶ月しか経ってないのにすごいねー」

「………」



俺はもともと物覚えは良い方だったけど、彼女の名前については少しだけ違う。

当時、美人で飾らない彼女の性格は、男子たちの間でも話題だった。

まあ、俺は特に興味なかったけど。


なんとなくバツが悪くなって、かばんから読みかけだった本を出した。

するとそれを目敏く見つけた彼女が、あっと声をあげる。



「わっ、それ『星の王子様』?」

「………」

「うわー、しかも英語版だっ」



べったりと机に顔をつけながら覗きこまれて、思わずパタリと本を閉じた。

そして、ギッと強めに彼女を見下ろす。
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