君だけの星へ
雨が降っていた。

まだ冬の寒さが残る、春先の冷たい雨。



『あ~あ、残念だったな。全然星が見えなくて』

「仕方ねぇだろ。雨なんだし」

『そうだけど……せっかく来たのになぁ』



俺は別の用事があって、参加できなかったサークルの天体観測。

電話ごしに彼女の声を聞きながら、窓から真っ暗な空を見上げた。

こんな天気が続くのでは観測もできないと、メンバーは早めに引き上げることにしたらしい。

本来ならば2泊する予定だったところを、明日こちらに帰ってくるようだ。


ふと、電話の向こうの彼女がやけに静かになって、俺はケータイを持ち直しながら「星佳?」と呼びかけた。



『ねぇ。……すきだよ、智』

「んだよ、急に」

『へへー。言っておきたかったんだもん』



言いながら彼女は、いつものやわらかい笑顔を浮かべているのだろう。

それを想像して、ふっと自分からも笑みがこぼれる。



「ああ。俺も、すきだよ」



俺がそう言うと、彼女はいつも一瞬息をつまらせて。

そしてすぐに、ふにゃりと破顔するんだ。



『ふふふふふ。しあわせー』

「そりゃよかった」

『うん。……またね、智』

「おー。それじゃあ」



──これが、彼女と交わした最後の会話だった。
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