君だけの星へ
わたしの左頬を解放した桐生さんは、はぁ、と深めのため息をついた。



「ほんと、女って意味わかんねぇよ。笑ってたかと思えば泣いて、泣いてたかと思えば笑って」

「………」

「振り回されるこっちが、馬鹿みたいだ」



なんでもないみたいに笑みを浮かべて言っているけど、その横顔は、どこか悲しげで。

わたしはぎゅっと、シャーペンを持ったままの右手を握りしめた。



「……桐生さん、もうすぐ7時ですよ」

「あ? あーほんとだ。ここらで切り上げるか」



最近机の上に置き始めた小さな赤い時計を見て、桐生さんは言った。

そしてわたしの前にあったテキストを持ち上げ、てきぱきと片付ける。



「それじゃあ、また次な」



そしてトートバックを肩にかけた彼が、そう言って踵を返す前に。



「……待ってください、桐生さん」



わたしは、机の中から“それ”を取り出して彼を呼び止めた。
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