君だけの星へ
視線の先には、それはそれは綺麗な微笑み。



「アメリカの、ある思想家の言葉だ。……『幸福は香水のようなもの。人に振りかけると自分にも必ずかかる。』」



彼の左手がわたしの方に伸びてきて、びくりと身体をこわばらせる。

その綺麗な指先はわたしの髪に触れ、そしてやけにやさしい手つきで、横の髪を耳にかけた。

フッと、また彼が頭上で笑みを浮かべる気配がする。



「つまりこれって、その逆もあり得るってことだよなぁ?」



ニヤリと意地悪く笑ったその顔を見て、フリーズするわたしの頭の中に思い浮かんだのは、『不幸』の2文字。

……お、鬼だ……!



「まあ、これからよろしく? 望月サン」

「い……っ」



髪を弄っていたはずの手がわたしにデコピンをかまして、反射的に目を閉じた。

すぐに目を開くけど、桐生さんはもう、わたしに背を向けて部屋を出るところで。



「じゃあな、次来るのはあさってだから。すっぽかすなよ~」

「~~~っ!!」



ひらひらと後ろ手に手を振りながら、余裕綽々な声音。

自分ばっかりがやられっぱなしなのが悔しいわたしは、ただ真っ赤な顔で、その背中をにらみつけることしかできなかった。
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