君だけの星へ
"おねがい"
『分別を忘れないような恋は、そもそも恋などではない。』
トーマス・ハーディ
◇ ◇ ◇
「──え? 家庭教師の先生を変えたい?」
驚いたようにそう言ったお母さんと目を合わせないまま、わたしはこくりとうなずいた。
「……それがダメなら、やめたい」
「どうしたの? 急にそんなこと言って……もしかして、桐生さんと何かあったの?」
その心配そうな声音に、一瞬ピクリと肩を震わせる、けど。
わたしは今度は、首を横に振った。
「……違うの。これはわたしの問題、だから」
「……そう」
言いながら、ふぅと小さく息を吐く。
追及してほしくない、というわたしの気持ちを悟ったのか、お母さんはそれ以上なにも訊いてこなかった。
それに心の中で安堵のため息をつくけれど、「だけど、」と言って再度お母さんが口を開く。
「そのことは、世莉からきちんと桐生さん本人に話さなきゃ駄目よ? 世莉自身の問題なら、なおさら」
そうわたしに諭すお母さんは、“親の顔”。
わたしは一瞬ためらいながらも、素直にうなずいた。