君だけの星へ

"おねがい"



『分別を忘れないような恋は、そもそも恋などではない。』


           トーマス・ハーディ



   ◇ ◇ ◇



「──え? 家庭教師の先生を変えたい?」



驚いたようにそう言ったお母さんと目を合わせないまま、わたしはこくりとうなずいた。



「……それがダメなら、やめたい」

「どうしたの? 急にそんなこと言って……もしかして、桐生さんと何かあったの?」



その心配そうな声音に、一瞬ピクリと肩を震わせる、けど。

わたしは今度は、首を横に振った。



「……違うの。これはわたしの問題、だから」

「……そう」



言いながら、ふぅと小さく息を吐く。

追及してほしくない、というわたしの気持ちを悟ったのか、お母さんはそれ以上なにも訊いてこなかった。

それに心の中で安堵のため息をつくけれど、「だけど、」と言って再度お母さんが口を開く。



「そのことは、世莉からきちんと桐生さん本人に話さなきゃ駄目よ? 世莉自身の問題なら、なおさら」



そうわたしに諭すお母さんは、“親の顔”。

わたしは一瞬ためらいながらも、素直にうなずいた。
< 152 / 175 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop