君だけの星へ
そして、また彼が口を開く。



「──ずっと、」

「え……?」

「ずっと、言えなかった言葉があるんだ」



ぎゅっと両手を包むように力をこめられて、思わず顔をあげた。

桐生さんはやさしい笑顔で、わたしを見つめていて。



「あの小説の、主人公ふたりがようやく結ばれるシーンで。男側の告白の言葉を、星佳がよく同じように言って欲しがった。でも俺はいつも、『こんな恥ずかしいせりふ言えるか』ってかわしてて……」

「………」

「だけど俺本当は、そのせりふを全部暗記してたんだ。……いつか、本当に大事なときに言おうと決めてた」



そこでふっと、彼が目を伏せる。



「……結局言えないまま、星佳はいなくなったけど」

「……ッ」

「だけど俺は、今おまえのために、あのせりふを言える」



また、掴まれた手の力が強くなった。

彼はまっすぐにわたしを見つめ、歌うように言葉を紡ぐ。



「……“ずっと、待たせていてごめん。ようやく僕は、自分の気持ちに気づくことができたんだ”」
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