君だけの星へ
ごねるわたしを前に、桐生さんははぁっと深くため息を吐いた。



「……仕方ねぇな。なんかもうおまえ集中力切れてるみたいだし、今日はもう終わろう」

「え」



ただし、残したところは次回までにやっておけよ。

そう言ってあっさり教材を片付け始めた桐生さんに、今さらながら罪悪感がわき上がる。

……だって、桐生さんはお給料をもらって、ここにいる。

だからそれに見合う結果を、わたしがちゃんと出さないといけないのに。


それにいくら桐生さんの態度がひどいといっても、もとはといえば彼の本に傷をつけてしまったわたしに非があるのは事実だ。

毎年かかさず本屋さんで手入れをしてもらうほど大切にしていた本を落として、あまつさえそれを破るなんて。


……そして、気づいた。

わたしはまだ、あの日のことをちゃんと桐生さんに謝ってない。



「……め……さぃ……」

「あ?」

「……ごめん、なさい……」



うつむきながら、そしていろんな意味を込めて、小さくしぼりだした言葉。

彼は後片付けをしていた手を止め、こちらを見つめた。


──ああ、また怒られちゃうなぁ。

そんなことを考え、ひざの上に乗せた両手をぎゅっと握りしめるわたしに……だけども桐生さんは、意外な言葉をかけた。
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