君だけの星へ
彼について
『あせることは何の役にも立たない。後悔はなおさら役に立たない。前者はあやまちを増し、後者は新しい後悔を作る。』
ゲーテ
◇ ◇ ◇
本棚にきちんと並べられた本たちと、傍らにはおいしい紅茶。
ここは夕方のやさしい雰囲気が流れる、あやめ堂だ。
「ははは。ずいぶんと、桐生さんは厳しい人なんだねぇ」
「笑い事じゃないよ、おじいちゃん……」
狭い店内に、おじいちゃんの快活な笑い声が響く。
わたしは不貞腐れたようにカウンターに頬杖をついていて、そのままぱたりと寝そべった。
「毎回毎回、次から次へと問題解かせるんだもん。フル活動しすぎて、頭がパンクしそう」
「まあ、それが彼の仕事だからねぇ」
「でもそれにしたって、あのスパルタぶりは尋常じゃない!」
口調荒くそう言い放ち、わたしはずずっとカップに入った紅茶をすする。
棚橋さんからいただいたアップルティーのいい香りをかいでも、わたしのトゲトゲささくれだった気分はおさまりそうにない。
カウンターを叩かんばかりのわたしの熱弁ぶりに、おじいちゃんも苦笑を浮かべて紅茶を口に含んだ。