君だけの星へ
嫌な、ズルい自分。

罪悪感はあるのに、こわくてそれを正直にさらけだせなくて。

桐生さんの言葉を聞いて、どこか安心したのは事実。

……もう二度とこの場所にいられなくなってしまう可能性も、少しだけ考えたから。



「……ああでも、初めて訊ねて来たときは違ったな」



言いながら、中身を淹れ直したカップをふたつ持ったおじいちゃんが戻ってきた。

ひとつを受け取りつつ、わたしは「なにが?」と首をかしげる。



「桐生さんの雰囲気だよ。初めて会ったときは、今とはもっと違う感じだった」

「えー? ……そういえば桐生さんって、いつからあの本を持って来るようになったの?」



彼は、いつも同じ本を預けるとおじいちゃんから聞いていた。

茶色いカバーの、あの『Dear my Stargazer』という外国の小説。


おじいちゃんはさっきまでと同じ木製の古い椅子に腰かけ、記憶を手繰るように視線を空中に向ける。



「ああ……ちょうど4年ほど前だ。その年の春は、やけに雨が多くてねぇ。あの日も朝から雨が降り止まない中、彼は訪ねて来たんだよ」

「ふぅん……」

「傘をさしていなかったのかひどくびしょ濡れで、上着で守っていたらしいその本だけが濡れずに無事だった。そしてカバーが少し裂けていたそれを僕に差し出して、『外に“本の修理承ります”ってはり紙があったんですけど』とだけ言ったんだ」



雨で、びしょ濡れの桐生さん。……なんだか、容易に思い浮かべ難い光景だ。

そのときの状況を思い出したのか、おじいちゃんは苦笑を浮かべる。
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