君だけの星へ
「僕はまずタオルを渡そうとしたんだけど、『必要ない』と断られてしまってね。……なんだかずいぶん憔悴していた様子だったから、心配したんだよ」

「……元気がなかったの?」

「そうだね。言葉数も少なかったし、顔は始終うつむきがちだった」



わたしは驚いて、思わずカップをじっと両手で包み込んだまま、黙っておじいちゃんの話に耳を傾けていた。

本当に、いつも自信に満ちあふれていて堂々とした態度でいる、今の桐生さんを知っているわたしには信じられない話だ。



「本を預かってから、だいたい1週間くらいで取りに来てもらえるよう伝えたんだけど……それから1ヶ月以上が経ってから、彼はようやく姿を見せた。最初に来たときよりも、幾分しっかりした表情でね」



他人事ながら、その変化にどこか安心したよ。

そう話を終わらせて、おじいちゃんはやさしく笑った。

またわたしが、口を開こうとしたとき──。



「わ、」

「ん? 電話かい?」



ポケットに入れていたわたしのケータイがメロディを流し、着信を知らせた。

そうみたい、と返しながら、取り出して開けてみると。



「……げ」



ケータイのディスプレイには、【桐生さん】の文字。

おそるおそる、受話ボタンを押して耳にあてた。
< 26 / 175 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop