君だけの星へ
「も、もしもし」

『望月てめぇ、今どこだ?!』

「ハイ? あやめ堂ですけど……」



なぜか怒りモードの、桐生さんの声。

わたしのこたえに、電話の向こうで思いきり息を吸う音が聞こえた。



『馬鹿かおまえッ!! 今日は5時からカテキョーの日だろがッ!!』

「はっ?! え?!」



桐生さんの言葉に慌てて掛け時計に目をやると、現在の時刻は午後5時15分。

サーッと、顔から血の気が引く。



「わっ、忘れてたっ」

『御託はいいから今すぐ来い!! ダッシュで来い!! 5分で来い!!』

「む、無理ですよぉ~っ!」



一方的に切れたケータイを片手に握りしめ、かばんを掴んだわたしは慌ただしく立ち上がった。

そして不思議そうにこちらを見つめるおじいちゃんへ「紅茶ありがとう! わたし帰る!」とだけ残して、忙しなくあやめ堂を後にする。



「(ご、5分は絶対無理ぃ~!)」



泣きそうになりながらも、言いつけ通りダッシュで家へと急ぐ。

今日もしばかれるの確定だなぁ、と電話口の桐生さんの様子から想像して、先ほどまでおじいちゃんに聞いていた話のことを考えた。

それと結びつき、なんだかいつもと様子が違った、先日の彼を思い出す。

……だけど思考をさえぎるように、またしてもケータイが着信を知らせて。



「ぎゃ!! わかってますよ急かさなくても望月は今向かってますよ……!」



そして今度こそ半泣きで、鳴りっぱなしのケータイに弁解しながら無心で家を目指す。



《……俺がこの先ずっと、忘れてはいけないものだ》



わたしがその言葉の意味を知るのは、もう少しだけ、後の話。
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