君だけの星へ
そこまで考えて、ふと気づく。

今さらだけどわたし、桐生さんのこと、なんにも知らないんだ。

そしてそれはきっと、桐生さんから見たわたしも同じで。

……なんだかそれって、少しさみしい気が、する。



「……桐生さん」

「あ?」



パラパラと問題集を眺めていた桐生さんが、眼鏡越しに視線を寄越す。

すうっと、わたしは息を吸った。



「桐生さん、わたしの誕生日、4月4日なんです」

「は?」

「春休みとかぶってるから友達からもなかなか直接おめでとうって言ってもらえないけど、お母さんに『しあわせの日』だって言われてから気に入ってます」

「はあ……」

「それからわたし、紅茶が大好きなんです。もうほとんど身体の一部で、毎日必ず1杯は飲みます。特にフルーツ系が好きで」

「待った」



ペラペラと訊かれてもいないことを話すわたしに、桐生さんはそう言ってストップをかけた。

めずらしく若干混乱したような表情で、わたしを見下ろしている。



「なんだよ、急に。数学で頭やられたか?」

「違いますよ」



そう答えて、わたしはにっこりと笑みを浮かべてみせた。


──桐生さんとわたしは、有紗が勘ぐるような甘い関係じゃない。

だけどもう、ただの“他人”でもない。

だから。……だからね。



「ただ、言いたくなっただけです」

「……なんだそれ」



もう少しだけ、お互いのことを知ったりして。

もう少しだけ、今より仲良くなれたらなぁって、思うんです。
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