君だけの星へ
最近の桐生さんは、自分が暇になるとなぜかわたしの本棚から勝手に小説を引っ張り出して読み始める。

しかもちゃっかりベッドに腰かけていて、完全にくつろぎモードだ。

これって、家庭教師としてどうなんだろうか。


一抹の疑問を覚えながらも指示されたページまで問題を解き終わり、わたしは手を止めてふぅっと息を吐いた。



「……よしっ! 桐生さん、できました!」

「………」

「おーい、桐生さーん」



それにしても、本を読んでいるときの桐生さんはちょっと名前を呼んだだけじゃこっちを振り向いてくれなくて……その集中力といい、かなりの読書家ということがうかがえる。

……まあ、ずっと何年も1冊の本を大事にしてるくらいだもんね。



「桐生さんってば!」

「……ん? あー、できた?」

「さっきからそう言ってます」



わざと不機嫌そうにジト目で見ると、桐生さんは「悪い悪い」と全然悪いと思ってなさそうな調子で言って、ようやく本を閉じた。

そして立ち上がり、本を片付けわたしの横までやって来る。
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