君だけの星へ
「ふーん、一応ちゃんと全部解いてんじゃん。えらいえらい」

「……ずっとほったらかしで小説読んでた人にほめられても」

「あ゙?」

「ナンデモアリマセン!」



問題集のページをめくりつつ鋭い視線をくれた桐生さんに、わたしはカタコトで敬礼した。

眉を寄せ釈然としない様子ながらも、桐生さんは赤ペンを取り出して採点をし始める。

その横顔を黙って見つめながら、ふと思いついたわたしは口を開いた。



「そういえば、さっき桐生さんが読んでた本って小学生向けのでしたよね?」

「んー、……ああ」

「なんか、すごく熱心に読んでたから活字びっしりのを読んでいるんだと思ってたんですけど」



わたしは子どもの頃からおじいちゃんの影響で本をよく読んでいたから、本棚にはその頃のものも残っている。

ひらがなの多い低年齢向けのそれを桐生さんが手に取ったのは、少し意外だった。


そう考えて何気なく口にしたわたしの言葉に、あー、と桐生さんは相づちを打って。

そしてその後の返答もまた、わたしには予想外のものだった。



「おもしろい本に、大人向けも小学生向けもねぇだろ。文字数が少ない絵本とかでも、考えさせられるようなものだってあるし」

「え? 桐生さん、絵本を見たりするんですか?」

「まあ、話題になってるものとかならたまに」



……さらに意外だ。このデンジャラス桐生さんが、絵本だなんて。

だけど彼の言葉は、わたしにもうなずけるものがある。
< 36 / 175 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop