君だけの星へ
「え、桐生さん、わざわざ追いかけてきてくれたんですか?」



彼の顔に視線を戻し、思わずそう訊ねた。

ようやくわたしの肩から手をおろした桐生さんは、ムッと眉を寄せてこたえる。



「……何気なく机の上見たら、普通にケータイ置いてあるし。よく考えたら、今はもう夜だし」



そこまで言って、ふっと頬を緩ませた。



「おまえは一応、女だし」



言いながらぺしりと、前髪のあたりを軽くはたかれる。

わたしははたかれた箇所を右手でおさえたまま、少しの間呆然と桐生さんを見上げていて。

すると彼は、そんなわたしからバツが悪そうに視線をそらして歩き出した。

ハッとしたわたしも、慌ててその背中を追いかける。



「き、桐生さん待って」

「……別に、たいしたことじゃないけど。最近このあたりでも変質者が出るって聞いたからな。俺がパシらせてるときに、万が一おまえが襲われるようなことがあっても目覚め悪ぃし」



ただそれだけ、と、あくまで正面を向いたまま、桐生さんは話す。

ぶっきらぼうなその言葉に、ふわりと心があたたかくなるのを感じて──わたしは思わず、笑みを浮かべた。



「……ありがとうございます、桐生さん」

「……おー、どんどん俺様を崇めろ」

「や、それはないっす」

「あ? 今なんつった?」

「ひゅみまひぇんれひたほっふぇたひっひゃらないれー(すみませんでしたほっぺた引っぱらないでー)」



──ごめんなさい。桐生さんは、人でなしなんかじゃないですね。

だって、こうしてわたしのことを心配して、追いかけてきてくれた。

いつも意地悪で、Sっぽくて、ついでに口も悪いけど、ちゃんとやさしいところがある。

それを知れたことが、うれしいです。
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