君だけの星へ
「……あ、そういえば桐生さん、わたしずっと訊きたかったことがあって」

「あ? なんだ?」



わたしの言葉を聞き、桐生さんが顔をこちらへと向けた。

そんな彼に、わたしは小さく笑いながら首を振る。



「いえ、勉強に関することじゃなくて……あの本のことなんですけど」

「『あの本』?」

「ほら、桐生さんがあやめ堂に預けてた、あの外国の小説です」



茶色いカバーに、金色の文字で『Dear my Stargazer』。

それはいわば、わたしたちが今のような関係になったきっかけともいえるものだ。

……あのきっかけがなかったら、きっとこんなに意地悪されることもなかっただろうし。



「ちょっとだけ、中身を見させてもらったんですけど……おもしろそうだったし、もう1度ちゃんと読みたいなって」

「………」

「だから、もしよかったら貸してもらいたいんですけど……」



話しながら、なんだかやけに桐生さんが押し黙っている気がして、ちらりと顔を覗いた。

ぼんやりと虚空を見つめていた彼は、わたしが自分を見上げていることに気づきハッとしたのか、繕ったような笑みを浮かべる。
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