君だけの星へ
「あ、いらっしゃいませ……っ」



動揺を表に出さないよう、つとめて明るい声音で挨拶をする。



「……どうも」



顔をあげて見ると、そこに立っていたのはまだだいぶ若い男の人だ。

背が高くて、無造作に散らばった黒髪の短髪。着ている細身の黒いジャケットが、おそろしく似合っている。

端正で無表情なその顔は、少しだけ冷淡そうな印象も受けた。

その男性はまっすぐに、こちらへ向かって歩いてくる。



「あの。俺、その本を預けていた者なんですけど」

「えっ、あ、ハイただいま……っ!」



低いバリトンボイスに、ハッとしたわたしは慌てながらそう答えた。

手早く本を紙袋へと戻し、カウンターの目の前に立つ彼に「どうぞっ」と差し出す。



「あ、お代はもうお支払い済みということでしたよね?」

「ああ、はい」

「失礼しました。ありがとうございます、またどうぞお越しくださいませ」


ぺこりと一礼し、にっこり営業スマイル。

お客さんの背中がドアの向こうに消えるまで、わたしはその体制を維持する。



「………」



ベルが控えめに音をたててドアが閉まり、だけども顔には笑みを貼り付けたまま、内心冷や汗タラタラ。

そうして緊張をほどいたわたしは、ごつんとカウンターにおでこをつける。


やっ、やってしまった……!! 申し訳ございません、申し訳ございません……っ!!


どうかあの本が無傷であることを祈り、胸の中で何度も、先ほどの男の人に対して力いっぱい土下座した。
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