君だけの星へ
「えー? だってたい焼きは頭があってこそ『たい』じゃないですか」

「なに言ってんだ。背後をとるなんて卑怯だろうが」

「たい焼き食べるのに卑怯とかあるんですか?!」



あるある、と大真面目にうなずく桐生さん。

その表情にわたしはなんだか感化されかけてきて、自分の持っているたい焼きをじーっと見つめる。

だけどもそれを黙って見ていた彼が、数秒後ハッと鼻で笑った。



「バカだよな、望月って」

「?! なっ、桐生さんの性悪!」

「あ゙?」

「ゴメンナサイ!」



ドスのきいた低い声音でひとにらみされ、わたしはすぐさま素直に謝る。



「わかればよし」

「……釈然としない……!」



満足げな桐生さんと、なぜかいいように遊ばれているわたし。

不満をぽつりと呟いてから、それをぶつけるように思いきりたい焼きにかぶりついた。

……うん、やっぱりクリーム最高!


思わず笑みを浮かべながら、もぐもぐと咀嚼していると。

こちらを一瞥した桐生さんが、不意に破顔した。



「……ふ、顔にクリームついてる」

「……!」



な、なんだこれ。

今まで意識したことなかったのに、『桐生さんがすき』って気づいたとたん、少し笑ってくれただけで心臓がやばいことに……!



「そ、そうですねたい焼きおいしいですね!」

「おまえ、クリームついてるっていう指摘は無視か」
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