君だけの星へ
その日の、数学の勉強が終わった後。

教材を片付けている桐生さんに、わたしは思いきって話しかけた。



「あの、桐生さん、お願いがあるんですけど……」

「お願い?」



参考書をしまう手を止めて、彼がこちらに顔を向ける。

わたしは、こくりとうなずいた。



「はい。もうすぐ、中間テストですよね」

「ああ、そうだな」

「そ、それでですね……もしわたしが、数学で90点以上とれたら……どこか、遊びに連れていって欲しいなあ、なんて……」



しどろもどろなその言葉に、桐生さんが「はあ?」と顔を歪めた。



「なんだそれ、がんばったご褒美が欲しいってことか?」

「ま、まあ、つまりそういうことです」

「ふぅん……」



呟きながら、じっと顔を見つめられる。

なんだかわたしの心の奥にある気持ちを見透かされそうで、思わず視線をそらしかけたとき。



「わかった。90点以上とれたら、な」



うなずいた桐生さんが、にやりと笑って、確かにそう言った。
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