君だけの星へ
「わたし、七夕の話もあんなに詳しく聞いたの初めてでした。桐生さんは知ってました?」

「まあ、」

「七夕の日に降る雨って、催涙雨とも呼ばれてるんですね。織姫と彦星が、流す涙かあ……」



言いながら、まだ明るい空を見上げる。



「健気ですよねぇ。1年に1度だけしか会うことが許されていない恋人を、想い続けるのって」

「……さあ、どうだかな」



思いがけない言葉が聞こえて、わたしは視線をとなりの桐生さんに戻した。

ハッと、彼が鼻で笑う。



「普通にありえねーだろ。織姫の方は知らねぇけど、彦星は絶対他に女いるって」

「そ、そんな夢も希望もない……!」

「もし彦星が、他の誰かを見つけていないんだとしたら……それはきっと、ただ彦星が弱虫なだけだ。またその誰かと離れることになるのがこわくて、結局前に進むことができないんだろ」



そう言って、彼は先ほどのわたしのように空を仰いだ。

たとえ昔からある説話に対してでも、こうして難しい方向に考える桐生さんは、すごくリアリストなのかもしれない。
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