君だけの星へ
彼を知る人
『神は、人生の12月に6月の薔薇を咲かせることができるよう、思い出を与えられた。』
ジェームス・バリー
◇ ◇ ◇
「う~っ、おいしい~っ!」
右手にフォーク、左手はほっぺたにあて、わたしは思わずとろけた表情で声をあげた。
目の前には、お皿に乗ったふたつのケーキ。
「うわ……よくそんなに食えるな」
そう言って顔を歪める桐生さんが手にしているのは、中身が真っ黒なコーヒーカップだ。
そんな彼に、わたしはフォークを持ったまま言葉を返す。
「全然イケますよぉ。甘いものは別腹なんです」
「ずいぶん都合のいい身体だな」
「やーだ桐生さん、今の言い方いやらしいですよ~」
「………」
「ごごごごめんなさいケーキを前にして調子ぶっこきました……!」
桐生さんの冷たい眼差しは、まるでナイフ並の鋭さだ。
わたしはその視線から逃れるように、またケーキへとフォークを入れる。