【短編】大好きだとか、内緒だし。
「だ、誰か……」
決勝の試合中、パスをもらいシュートをしようとしたとき、やはり前の実戦形式の練習のときのように相手チームの執拗なディフェンスに阻まれ、身動きが取れなくなり、やむを得ず、いったん味方にパスを出そうとしたら。
「……」
「え」
諸岡君と目が合ったのにも関わらず、「春田さんこっち!」とも「パス!」とも言ってもらえず、ただ、急いでこちらに走ってくる紗英にパスを出せと指を指されただけに終わり、なんとか紗英にパスは出せたものの、決勝の試合中にまで諸岡君には避けられてしまった。
こうなってくれば、極度の照れ屋、とか、機嫌が悪かった、では容量を越えているとしか思えなくなり、試合は競り合っているのだけれど、猛烈に逃げ出してしまいたい気持ちになる。
涙だって出てくる、というもの。
紗英から諸岡君へパスが通り、3ポイントの位置から華麗にシュートを決める諸岡君の姿が、涙でぼやけて、ふにゃふにゃだ。
それからの試合では、あたしはことごとくシュートを外してしまい、諸岡君を除くチームのみんなが、そのフォローに体を張って回ってくれる、という試合展開に終始した。
やっと通ったパスなのに、これじゃあ、シュート要員でも何でもない、ただの足手まといだ。