【短編】大好きだとか、内緒だし。
 
「……バスケなんて、大っ嫌い」


みんなが一生懸命にボールを追いかけていて、ゴール下で待つあたしにパスを出してくれる姿を目に留めながら、それでもぽつりと出てきた本音は、そういったものだった。

試合は、いよいよ終盤。

けれどあたしは、すっかり集中力をなくしてしまい、また、勝ち負けなんてどうでもいい、とさえ思えてきてしまって、ひとり、妙に冷めた気持ちでボールの行方を目で追っていた。

と。


「キャッ!つぼみっ!!」


紗英の悲鳴が聞こえたかと思ったら、次の瞬間には、顔の横に焼けるような痛みが走る。

親指と人差し指の間をケガしたときとは比べものにならない痛みに、衝撃で思考が鈍る頭で、ああ、ボールがぶつかったんだな……と思う。


「とりあえず、保健室」

「……え、あたし、大丈夫っ」

「……、……」

「ちょっ、諸岡君っ」


けれど、試合に出続けられないほどのものでもなかったのに、なぜか一番に駆けつけ、腕を引くのは、あたしを避け続けていた諸岡君だ。

いつもの無口は、相変わらず。

それでも、あたしの腕を引いてズンズンと歩く歩調には焦りが見え隠れしていて、その横顔には、どこか覚悟のようなものも読み取れる。
 
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