【短編】大好きだとか、内緒だし。
「紗英っ、名前っ!あた、あたしの……っ!」
黒板にあたしの名前を書いた張本人、学級委員長でもある紗英に、慌てて抗議をしに行く。
けれど紗英は、チョークを持つ手を休めることなく、あたしの名前の横に、諸岡、と書きながら、しれっとした口調でこう言うのだ。
「うん。チームのバランスを取るために、ちょっと名前を借りたよねー。てか、バスケって何気に不人気なのよ。どうせ誰も立候補しないんだから、委員長を助けると思って頼むよ」
「そんなぁ……!」
あたしがバスケはおろか、運動全般があまり得意ではないのを知っていての、この抜擢って。
いくら親友だといっても、ひどすぎる……。
「まあ、遊びなんだし、諸岡もいるし、体育祭までには、なんとかしてもらえるでしょう。あたしだってメンバーなんだから、大丈夫よ!」
がっくりと肩を落としていると、チョークを持つ手を休めた紗英が、あたしの肩に手を置き、そう言いながら、にこにこと笑う。
あたしは、紗英のこの顔に弱い。
……とっても。
あたし的には、最近、よく目が合う諸岡君も、バスケを避けたい理由のひとつではあるのだけれど、それをこの場で言えるわけもなく、すごすごと自分の席に戻る、という、なんとも不甲斐ない結果に終わったあたしだった。