【短編】大好きだとか、内緒だし。
「じゃあ、まずはパスを回してみよっか」
そう言った紗英に渋々頷くと、1週間後の体育祭に向けての練習がはじまった。
いつもは部活で使われている体育館は、あたしたちと同じように体育祭の練習で使う生徒がちらほらといて、みんなジャージに着替えてはいるものの、ことごとくやる気がない。
放課後にわざわざ残って練習をしよう、という物好きは、あたしたち……というか、体育祭は遊びだ、と言った紗英くらいなもので、現に練習に参加しているのは、男女混合バスケチーム内で、紗英、諸岡君、そしてあたしの3人だ。
「つぼみ、ボールっ!」
「え!? わっ!……ぐふっ」
「大丈夫? てか、ぐふっ、って。ぷぷぷー」
すると、どうやら、少しよそ見をしていた間にパスが回ってきていたようで、取り損ねてお腹に直撃したあたしは、女子とは思えないような野太いうめき声を上げてしまった。
それを笑うのは、もちろん紗英だ。
諸岡君は、なぜだか、あたふたとしていて、ゆるゆると力なく体育館の壁に向かって転がっていくボールを、何度も取り損ねている。
「……今のパス、諸岡君だったの?」
「うん。それにしても、すごい動揺っぷりね」
「エースなのにね」
「それは関係ないよね」