【短編】大好きだとか、内緒だし。
紗英に聞くと、やはりあたしにパスを出したのは諸岡君だったそうで、女子にボールを当てるなんて思ってもみなかったのだろう、どう対処をしたらいいか分からない様子だった。
ボールを持ったまま、手持ちぶたさでうろうろとしているところなんかが、まさにそれで、みんなから一目置かれるバスケ部のエースには、なかなか見えないのが、正直な感想だ。
「あの、諸岡君、気にしないでね」
「……」
言うと、こくり、無言で頷く諸岡君。
顔はとっても赤い。
彼の声をあたしはほとんど聞いたことはなく、無口だ、という話は本当のようで、どれだけ無口なの……と思ったのが、次の感想だ。
その後、紗英が場を仕切り直し、再びパス回しがはじまっても、諸岡君は無言で、紗英だけがやたらと元気がいい、そんな状況が続く。
実戦となると、なぜか不人気だというバスケ。
紗英を助けると思ってメンバーに加わることを了承したあたしだったけれど、諸岡君とは一言も話さないままに終わってしまったこの日の練習に、一抹の不安を覚えたのは否めない。
初日はこんなもんかな、とも思うけれど、無口すぎるエースを柱とするこのチームのチームワークと、あたしのバスケに対する苦手意識の克服、あと6日でどうにかなるだろうか……。
不安です。