冷徹上司のギャップに振り回されています
『有川か。君は時計が見えないのか? 定時過ぎてるだろうが』
「しょっ……!」
『早く上がれ。許可してない残業は、手当てなんかつけないぞ』
「す、すみません」
 
ブツッと忙しなく通話が切られ、ツーッという無機質な音が受話器から聞こえる。
カチャリと静かに受話器を戻すと、本田さんが不思議そうな顔でこっちを見ていた。

「どうかした? 変な電話?」
「あ、いや。そういうのじゃなくて」
「充くんだろ? 差し詰め、『早く帰れ。残業代出さないぞ』ってところかな」
 
私と本田さんの会話に割って入ってきた三浦さんの言うことが、見事に当たっていて感嘆の言葉を漏らしてしまう。

「すごい! 全くその通りです」
「はは。やっぱり。そういう性格だからねぇ、彼は。でも、本当だ。もう二十分も過ぎてる。早く帰りなさい」
「あ、すみません。じゃあ、お先に失礼します」
 
目尻を下げ、穏やかに笑う三浦さんに後押しされた私は、早々に事務所を出た。
 
階段を下りながら、三浦さんは東海林さんと、どんな間柄なんだろう?と、今朝も疑問に思ったことを再び考える。
 
まさか親子ではないだろうし。親戚? 
それとも、仕事上で昔から関係があったりしたのかな?
 
うーん。そもそも東海林さんって何歳くらいなんだろう? 
落ち着いている分、実年齢よりも年上に見える可能性が高そう。
かといって、そんなこと怖くて本人に聞けない……。

『それが仕事に関係あるのか?』とか言われそう。
 
< 13 / 17 >

この作品をシェア

pagetop