冷徹上司のギャップに振り回されています
人で混雑している街の中を歩きながら、氷のように冷たいであろう東海林さんの反応を想像しては身震いする。
 
だめだ。思考を変えよう。

それにしても、忙しいんだな。税理士さんって。
三浦さんも本田さんも、仕事終わりそうもなかったし。
東海林さんに至っては、まだ事務所に戻れないだなんて。
 
茜色のアスファルトをぼんやり見つめ、事務所の光景を思い出しながら、そんなことを思う。

仕事が残っていて自分だけが先に帰ることに、ちょっと罪悪感を抱きつつ、『でも、今の自分じゃ出来ることは限られてるから』と思うことにした。
 
悶々とした気分で歩いていると、通りかかったコンビニの看板が目に入り、立ち止まる。

「バイト……探そう」
 
人混みの中でぽつりと漏らした後に、自然と溜め息も出てくる。
そしてそのまま、暗い気持ちに陥った。
 
コンビニに入店し、すぐに右へ曲がりながら思い返す。
 
事務所の決まりには、仕事の掛け持ちについては何も触れられていなかった。
いいよね? 迷惑掛けなかったら大丈夫だよね?
 
肯定するように言い聞かせ、雑誌コーナーの求人情報誌をパラパラと捲る。
すると、カバンの中に入れていた携帯が鳴った。

私は、敢えてそれを無視し、マナーモードに切り替える。
それからすぐに、手にしていた情報誌をレジに持っていった。
 
会計を済ませて外に出ると、さっきよりも夕日が赤く染まっている。
眩しい太陽から逃げるように背を向け、長く伸びる影だけを見つめて黙々と家路を辿った。
 
赤信号で足止めされてしまった時に、思わず心の声が口から出る。

「三百万……。こうなった以上、どうにかしないと……」


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