冷徹上司のギャップに振り回されています
私は先々月の五月で、丸三年勤めていた会社を退職した。
別に、前職場の待遇に不満があったわけでも、上司や同僚と不仲だったわけでもない。
どちらかといえば平穏に過ごせていたし、給料は高いわけじゃなかったけれど生活も出来ていたから、辞める理由なんてなかった。
その私が、退職を決めた理由――。それは、元彼氏の卓也だ。
二年ほど付き合った卓也とは、友人主催の飲み会で知り合って、数回会うようになってから恋人同士になった。
同棲はしていなかったけど、ちょくちょく私のアパートに泊まりにきたりして、普通の交際をしていたんだけど。
二十八歳になった卓也が、ある日突然、『一念発起して起業することにした』と言ってきたのが事のきっかけ。
その新しい会社で、事務として手伝ってほしいと頭を下げられ、悩んだ末に退職したというわけだ。
で、どうなったかというと、起業前にひとこと、【探さないでくれ】っていうメールだけがきて……。
「まさか、お金を持って、行方をくらますなんてね……」
くしゃくしゃに丸めて放った足元のカレンダーに視線を落とし、自嘲気味に鼻で笑ってしまった。
威張れることではないけれど、私の貯金額は微々たるものしかなかった。
だから、卓也が持って行ったお金は、私のお金じゃない。
それなら、ただ彼氏が失踪しただけで、私が困ることなんかないだろうってところだけど、話にはまだ続きがあって。
卓也が闇金から借り入れする際に、勝手に私を連帯保証人にしていたというオチだ。
「はぁ……。ホントに信じらんない」
現実から目を背けたくてカレンダーを引っ剥がしたけど、知らない番号からの着信履歴の山は、その逃げたい現実を突きつけてくる。
それでも、三百万ってところが返済しきれない額じゃない気がして、辛うじて気力が残っている。
もしかして、そういうことまで見越して、卓也は三百万を借りたんじゃ……。
「あぁ、もう!」
苛立ちに任せ、足元に転がるカレンダーを蹴り飛ばす。
別に、前職場の待遇に不満があったわけでも、上司や同僚と不仲だったわけでもない。
どちらかといえば平穏に過ごせていたし、給料は高いわけじゃなかったけれど生活も出来ていたから、辞める理由なんてなかった。
その私が、退職を決めた理由――。それは、元彼氏の卓也だ。
二年ほど付き合った卓也とは、友人主催の飲み会で知り合って、数回会うようになってから恋人同士になった。
同棲はしていなかったけど、ちょくちょく私のアパートに泊まりにきたりして、普通の交際をしていたんだけど。
二十八歳になった卓也が、ある日突然、『一念発起して起業することにした』と言ってきたのが事のきっかけ。
その新しい会社で、事務として手伝ってほしいと頭を下げられ、悩んだ末に退職したというわけだ。
で、どうなったかというと、起業前にひとこと、【探さないでくれ】っていうメールだけがきて……。
「まさか、お金を持って、行方をくらますなんてね……」
くしゃくしゃに丸めて放った足元のカレンダーに視線を落とし、自嘲気味に鼻で笑ってしまった。
威張れることではないけれど、私の貯金額は微々たるものしかなかった。
だから、卓也が持って行ったお金は、私のお金じゃない。
それなら、ただ彼氏が失踪しただけで、私が困ることなんかないだろうってところだけど、話にはまだ続きがあって。
卓也が闇金から借り入れする際に、勝手に私を連帯保証人にしていたというオチだ。
「はぁ……。ホントに信じらんない」
現実から目を背けたくてカレンダーを引っ剥がしたけど、知らない番号からの着信履歴の山は、その逃げたい現実を突きつけてくる。
それでも、三百万ってところが返済しきれない額じゃない気がして、辛うじて気力が残っている。
もしかして、そういうことまで見越して、卓也は三百万を借りたんじゃ……。
「あぁ、もう!」
苛立ちに任せ、足元に転がるカレンダーを蹴り飛ばす。