冷徹上司のギャップに振り回されています
……私はなにを口走っているんだろう。
キャバクラで働くのか、働かないのか。この人に関係あるとしたら、それだけだろう。
なのに、『普通の仕事がいい』とか。
彼はハローワークの人でもないのに、そんなこと言ってどうするの?
せっかく上げた顔が徐々に下がっていき、ついには彼の目を見られなくなる。
辛うじて掴んでいたスーツの袖も、軽く腕を動かされて振りほどかれてしまった。
「……君はなにを勘違いしてるんだ? 私は黒服になった覚えは一度もない」
「え?」
「ついでに言うと、就職先の紹介だって私の管轄外だ」
そう言われてしまえば、返す言葉もない。
だけど、この人。さっき掴んだ時に確信したけど、上質なスーツ着てるし。
顔つきとか話し方とか、〝イイ仕事してる人〟なんだろうなって思うし。
「あの! 失礼を承知でお伺いしますが、接客(こういう)仕事じゃなくて、事務とかで……少しでも割のいい受け入れ先とか、ご存知ないですか!?」
「はぁ?」
彼の、心の底から邪険にするような反応に肩を窄める。
けれど、引くに引けなくて、言い訳がましく口を尖らせた。
「だ、だって! じゃあ、なんでわざわざ私に声を掛けてくれたんですか! ちょっとは気に掛けてくれた……とかじゃないんですか?」
なんて図々しいんだろう、自分。
そう頭を過るけど、今の私は崖っぷちなわけだし、どうにでもなれだ。
眉間に深い皺を作っても、綺麗な顔立ちの人は綺麗なままだ。
むしろ、綺麗だからこそ、しかめっ面も迫力がある。
それでも、私はもう一度彼の腕に手を伸ばし、きゅ、と軽く掴んだ。
「私、有川沙枝です! 色々あって職を失って……だけど、すぐにでもお金が必要になっちゃったので! 少しでも割のいい仕事に就きたいんです!」
片手で彼を拘束したまま、カバンに入っていた履歴書を突き出し、息継ぎもせずに勢いで言い終える。
彼はそんな私を瞬きもせずに見下ろすと、履歴書を一瞥した。
そして、形のいい薄い唇が、ほんの少し開く。