冷徹上司のギャップに振り回されています
税理士事務所ってどんなところなのか、とか、どんな人が、どのくらいの人数いるのだろう、とか。
そういうことを、再び頭に浮かべては緊張してしまう。
 
本田さんの背中で視界がほぼ遮られ、まだほとんど事務所内の情報が得られない。
ドキドキとしながら、その場に直立不動状態で待機する。

「おはようございます。ドアの前に立ってたので連れてきましたよ。彼女、新しいスタッフなんですよね?」

本田さんは話しながら、右側の自席らしきデスクに向かって行く。
いよいよ、私の前方は視界良好になり、事務所の景観がうかがえた。

一番初めに目に入ったのは、真正面に並ぶ大きな窓。
そして、その窓を背にして椅子に掛けているのが、東海林さんの姿だった。

「正式に契約するかは未定。使えるのかは、まだわからないからな」

私と目も合わさずに、手元の書類に視線を落としながら口にする言葉は、昨日と同じく淡々としたもの。
 
この人って、普段からこういう感じなんだ。
昨日は、得体の知れない私が煩わしくて、冷やかな態度を取っていたのかも……なんて思ったりもしたんだけど。
どうやらそうじゃないみたい。
 
改めて、〝東海林充〟という人は冷淡タイプだということを認識すると、気を取り直して足を進めた。

「おはようございます。今日から、よろしくお願い致します」
 
嫌味な言葉に負けずに深々と頭を下げ挨拶をするも、なかなか反応が返ってこない。

ゆっくりと頭を上げ、ちらっと東海林さんを窺う。
見ると、私の存在なんか気にも留めない様子で、頻りにデスクの上の紙を見比べては難しい顔をしていた。
 
いやいやいや! 仕事が大事なのはわかるけど、新人のこともちょっとは気にしましょうよ!
 
ありえないほどのドライな対応に茫然と立っていると、後方からガチャリとドアの開く音がする。
反射的に振り向くと、やや恰幅のいい年配の男性が入室してきた。

その人は、私を見てニコッと目尻に皺を寄せる。
それから、本田さんとは逆側のデスクに向かい、今度は陽気に笑った。

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