上司と上手につきあう方法【完結】
「――なんだ」
部長はグラスの半分ほどを飲み干した後、ぼーっと自分を見つめる妖しい視線に気づいたのか、怪訝そうに眉根を寄せる。
「あ、いえ……その、ビックリしちゃって」
「ビックリ?」
誘っておいてなんだけど、十中八九――いや、間違いなく、百パーセント断られると思っていた。
けれど私の飲みませんかというお誘いに、永野部長はうなずいた。
で、こうやって駅近くの小さな、なんてことない居酒屋で一杯、ということになっているんだけど、この状況に我ながらちょっとビックリっていうか……。
「まさか永野部長にお付き合いいただけるとは思いませんでした」
今さら隠したって仕方ないので、一か八かでお誘いしたことを口にすると、
「俺も、‘飲みたい気分’だったんだ」
彼はああ、という感じに軽くうなずいたあと、唇の端をほんの少し持ち上げ、それからグラスに残っていたビールをすいっと飲み干し、通りすがりのウェイターに声を掛け、お代わりを頼んだ。