上司と上手につきあう方法【完結】
「――今さら……」
部長は苦しそうに息を漏らし、両手に持っていたボストンバッグを握る手に力を込める。
もし、部長がこの荷物を持っていなかったら、どうしただろう。
すぐに両手を伸ばして、彼女を抱きしめたんじゃないだろうか。
そんな景色が脳内に浮かんで、息が止まるほどの衝撃を受ける私。
慌ててマイナスな思考を振り切ったけれど、彼女は私なんかまるで目に入らないかのように、カツカツと歩を進め、まっすぐ部長に歩み寄ってきた。
「お願い。どうしても話したいの」
「――」
「ササグさん、私、時間がないの、だから」
近づいた彼女は一層美しかった。
そして彼女の悲痛な声に、一緒にいる私の胸がザクザクと切り裂かれる思いがする。