片恋
「遼平、誰ー?」
「あ、もしかして妹、来た!?」
「待って、見して!!」
ドヤドヤと複数の人の話し声がして、
部屋の中をこちらに
向かってくる足音が聞こえた。
遼平君はそれには答えず
すっと玄関から出てくると、
無表情で後ろ手にドアを閉めた。
「あ、ごめんね、お友達来てたんだ・・・。」
「・・・ごめん。
悪いけど、今日は帰ってくれるかな。
それから、連絡なしにここへは、二度と来ないでね。」
二度と
一瞬、目の前が真っ暗になったけれど、
頭の片隅で彼が怒っているわけではないのがわかって、
私はなんとか、平静を保つ。
「う、うん・・・。ごめんなさい・・・。」
うわずった声で、かろうじて答えると
遼平君はとりなすようにニッコリ笑った。
「ほんとにごめんね。
ケーキも買っといたんだけどさ。
食われちゃったから次また買っとくよ。」
「・・・食われちゃったか。」
へへっと笑い返すと、
遼平君はどこか決まり悪そうに視線を逸らした。
そのまま、とんとん、と
つま先を鳴らして、引っ掛けてた靴を履く。
送ってく、と言ってくれるので、
どうにかこうにか押し止めて、
私は笑って踵を返す。
駅の方に向かって歩きながら
時々振り返って、
見送ってくれている遼平君に手を振った。
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遼平君が、私には特別やさしい顔を
こしらえて接してくれてるのは、わかっていた。
前にもファーストフード店で、
遼平君が友達と話してる所を見かけた事がある。
その時の遼平君は、もっと気安い態度で、
ぞんざいな口調で笑っていた。
さっき遼平君が
きまり悪そうな顔をしたのは、
その名残がどこかにあるのを
私に感じ取られてるようで、
きっと気まずかったのだ。
だから私が『一人で帰る』と言っても、
割とあっさり引き下がったんだろう。
私があまり、
他の人といる時の遼平君を見たくないと思っていることに、
彼はちゃんと気づいているから。