片恋
真夜中の住宅街は
ひっそりと静まりかえって、
世界に自分達しかいないような、
世界が自分達だけのものになったような、
不思議とわくわくする孤独感に
気分が高揚した。
ひそひそ声でくだらない話をして笑うと、
自然と、仲間意識に似た親密さを感じる。
仲直りどころか、
子供の頃にまで戻れた気がして、
私は嬉しくてしょうがなかった。
「だから、あれはコトコが・・・」
「あ、また人のせいにして。みき先生に言ってやろ」
「なんでミキ先生だよっ」
そろそろ亮介の家が見えてきたと思った頃、
不意に亮介が立ち止まった。
私は、「しまった、目論見がばれたか。」とは
おくびにも出さないように気をつけながら、
振り返ったままで足を止めた。
亮介は真剣な表情で、前方を見ている。
その固い視線を追って
私も目をこらすと、
亮介の家の前で、暗闇にとけて人影が動いた。
ゆっくりと、
塀に寄りかかってた身体を起こし、
こちらに向かって歩いてくる。
「・・・遼平君・・・」
遼平君は、数メートル先で立ち止まると、
ただ真っ直ぐに、こちらを見た。
「おいで、琴子ちゃん。」
静かな声は夜の空気に、
すうっと馴染んで跡形もなくとけこむ。
「あとは俺が送っていくよ。
おいで、琴子ちゃん。」
「あ、うん。ありがとう。」
遼平君がまとう、どこか濃密な闇の気配に
すこし酔うように気圧されて、
それからはっとして、
慌てて大きな声で返事をした。