片恋



亮介の家から
そう遠くない私の家に向かって、

いつもより少し早足で歩く、
遼平君の背中を見あげた。


それから数歩先まで小走りをして、

手を伸ばして追いついて、

やっと隣りを並んで歩く。


探り当てるように手を繋いで、

目の前にある腕にそっと顔を寄せると、


その袖は、
つんと冷たい夜の空気を、

たっぷりと吸い込んでいた。


「・・・遼平君、怒ってる?」


そーっと腕越しに、
顔を覗き込むようにして反応をうかがうけれど、

遼平君は前を向いたまま、こちらを見ない。

「どうしてそう思うの?」

静かな口調に彼の機嫌をはかりかねて、

私は、当たり障りのない言葉を探す。



「・・・ずっと黙ってるから。」

それを聞いて遼平君は軽く眉を顰めると、

呆れたように息を吐いた。

わざとつかれた溜息に
叱られるのを覚悟しながら、


私は往生際悪く、

気づかないふりでふざけて笑う。

< 113 / 185 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop