片恋
私はその視線の意味がわからず、
問い返すように、
ただ怯えて彼を見返す。
遼平君は、
まるで物わかりの悪い生徒を哀れむような、
慈しむような瞳で私を見つめたまま、
ふっと、少し意地悪く笑った。
「琴子ちゃん、嘘ついた?」
「・・・っ、ごめんなさい・・・っ」
とっさに謝って下を向くと、
自分の上に黒い影が落ちて
思わずぎゅっと目をつぶった。
そっと頭上に伸びた気配は
やさしく髪をなでて、
私はそれが正解の答えだと知る。
「よくできました。」
悪戯っぽく響く声と同時に、
冷たい手が滑り落ちてきて
頬を一度なでていった。
その手とともに、
すぐ身近にあった彼の気配が遠ざかり、
おそるおそる瞼を開けると、
目の前に鞄を突き出された。
どこかに置き忘れた、学生鞄。
どうしてこれが、という疑問さえ
茫然とした私の頭には思い浮かばず、
おずおずと受け取って顔を上げた時には、
遼平君は既に数歩先を歩いていた。
ほとんど何も入っていない皮の鞄は
それだけで重くて、かじかんだ手に余る。
押しつける様に渡されたそれは、
自分のものなのにどうしようもない違和感を覚えて、
私は鞄を抱えたまま、
途方に暮れて
彼の背中を見つめていた。