片恋
駅を出て通りに向かいながら、
人の流れに負けないよう、黙々と歩いた。

急に立ち止まった遼平君が
真面目な顔で振り返って、

私は、ギクッとして足を止める。

「どうかした?手」

「え?」

その視線を追って初めて、
ポケットに入れっぱなしの自分の手に気がついた。

「あ、うん、なんだろ、寒いわけじゃないんだけど、
そうだっ、飴あるよ。」

ほらっと、ポケットから飴を取り出そうとして、
ただそれだけの事に
いつまでも手間どっていると、

どこか別の所を眺めた遼平君が、
何気なく言った。

「今から行くと始まってるな、映画。
どうする?次の上映時間までどこかで待つ?」

「え、あ、・・・ごめんなさい、
私が遅刻したから・・・、

じゃあ、・・・

・・・次の約束の時で。」


おずおずと横顔を見上げてそう提案すると、

遼平君はこちらを向いて、
え?と聞き返した。

「今日は観ないってこと?」

「そう、上映まで何となく時間を潰すとかもったいないし!

映画は次回にしよう!ね!

今日は『映画じゃないデートの日』にしよう!

それで遼平君は、次はいつ空いてる?」

ますます怪訝そうに、
遼平君が私の顔をじっとみつめる。


「・・・もう次の話なの?」

「そうだよ、なんかへん?

約束は早いに越したことないよ!!」


別に深い意味はありません!!
何も考えてません!!

という笑顔で、
私はニコニコと遼平君を見上げる。

遼平君は暫く何か考えた後、

「俺は割といつでもあいてるし、
映画ならまた、琴子ちゃんが観たい時でいいよ。」

ごく平静にそう言って、一度そらした視線を私に戻す。


「それで?どこか行きたい所はあるの?」

「えっ」

正直、なんにも考えてなかった私は、
慌てて「デートスポット」を思い返したけれど、

返事を待つ遼平君の視線をプレッシャーに感じて、
ますます何も思い浮かばない。

「そ、その、えーとっ・・・」


一緒にいられれば、どこでもいいんだけど。


「・・・そ、そうだ、水族館に行きたい!」

「水族館?」

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