片恋
「おまたせしました、・・・っ。」
息切れしながら、一息つくのも惜しんで
買ってきたばかりの袋をガサガサと破いていると、
それを見た遼平君が、軽く苦笑する。
「そんな、急ぐ事ないのに。」
そう言われて、手が止まった。
顔を上げられずに、
自分の指先を見ながら尋ねる。
「・・・さっき、誰かと話してなかった?知り合い?」
「話してた?誰と?」
誰と、・・・って・・・
「・・・女の人。」
遠目から見ても、はっきりした顔立ちの、綺麗な人だった。
「話してた様に見えた?鞄、開いてますよって教えただけなんだけど。」
予想もしなかった返事に
思わず顔を上げて、ぽかんとして遼平君の顔を見た。
「・・・へ?」
言われてみれば、そんなやりとりでも
さっきの場面はしっくりおさまる。
「わ、私、・・・」
勘違いに恥ずかしくなる。
違う、勘違いして変な疑いを持った自分に、だ。
いたたまれないような恥ずかしさをごまかして笑いかけると、
遼平君は笑わずに、
真面目な顔で、私のお土産を指差した。
「なんか、急いでなかった?」
あ、そ、そうだった、そうだった、と私はぎこちなく袋の中に手を入れる。
「ね、みてみて。いいでしょ。」
その白くつめたい骨のようなかたまりを取り出して、
そっと、遼平君のてのひらに乗せた。
貝殻。