片恋


「ここであいつ待ってんでしょ?
でも今日はもう講義ないし、
部屋にいるんじゃない?かけてみれば?」

ソレ、とその人は、
私の鞄からのぞく携帯を指差す。

「・・・いえっ、それならいいんです、
帰りますからっ、じゃあ!!」

私は鞄を抱え上げると、
急いで立ち上がってその場を後にした。

それから思い出して、
一度振り返って頭を下げようとしたけれど、
その人がどこにいるのか、もうわからなかった。


暗い道を駅に向かって走りながら、

どうしよう、
どうしよう、

と不安が大きく渦巻いていく。

どんなに強く息を吐き出しても、
胸のつかえは外に出て行かない。


『声かけて失敗した!!って思った』

『今日はもう講義ないし』

『部屋にいるんじゃない?』

『かけてみれば?』

電話、を、

かけてみて、つながらなかったら。

つながって、鬱陶しがられたら。


もし、も、メールに気づいていて、

返すのが面倒なだけだったのなら、


私は、どうやって
遼平君と会話したらいいのだろう?



駅を越えて、反対口にある遼平君のマンションの前に来ていた。


荒く息を吐きながら、
外壁が白く浮かび上がるそのマンションを見上げる。

いくつか灯る部屋の明かりの中から、
視線を走らせて窓を数え、遼平君の部屋を探す。


涙があふれてきて、いよいよ何も見えなくなった。

足元に滴り落ちる涙を見送って、
泣きじゃくりながら、頭を振った。


・・・いい加減にしなさい。

なにやってんの、私。

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