片恋
「琴子ちゃん?」
遼平君の声が聞こえて、
私は、顔を上げて振り返った。
涙でぼやけてよく見えないけれど、
遼平君ひとりではないことに気が付いて、慌てて目をこする。
近づこうとして、ドキッとして足を止めた。
遼平君と一緒にいる女の人が、
前に水族館で見かけた人と似ている気がする。
「ここには来るなって言ったと思うけど、ああ、聞いてなかった?」
「あっ・・・、その、・・・
ごめんなさぃ・・・」
一言目から怒られてしまって落ち込むと、
遼平君の隣りに立つ女の人が、驚いたように彼の袖を引く。
「ちょ、ちょいちょい、いくら何でもそんな言い方・・・、
この子でしょ?あの話の・・・」
その人は様子をうかがうように視線を送るけれど、
遼平君は素知らぬ顔で答えない。
「わかった、水族館の子だ。」
「うわ、なんでそういうこと言うかな。」
「少しは焦った所が見られるかなーと思ったんだけど・・・、
って、わーーっ、ごめんっ、ウソウソっ、泣かないで!」
変わらず平然とした遼平君とは反対に、
慌てた女の人に、がばっと抱きつかれて面食らう。
「・・・泣いてないです。」
「心配しないで!私、ただの友達!いや、知り合い!
・・・じゃなくて通りすがりだから!
ごめん、また今度にするわ!帰るね、じゃあね!」
一方的にしゃべると、身をひるがえして
あっという間に去ってしまった。
・・・明るいひとだな・・・。
目まぐるしさに呆然としていると、
不意に遼平君に、頬を触られて驚いた。
「なんか・・・、顔色悪いな。何かあった?」
「あ、ううん!
ここに来る前に、交通事故を見かけてびっくりしちゃって」
笑って答えながら、つい一歩あとずさると
ごく自然に彼の手が離れる。
「そっか。・・・どこか近くで、お茶でもしようか」
「やった!」