片恋



「遼平君、携帯鳴ってる。」

「うん」

ファミレスみたいな広いカフェで、
席に通されて置いた遼平君の鞄から、
携帯の振動音がずっと続いている。

言われなくても気づいているだろうに
一向に取ろうとしないので、
私は、気になってしまって仕方がない。

やっぱり今日も、忙しいんじゃ・・・。


「・・・出ていいよ?」

促すと、物憂げな様子で手に取って
一瞥した後、テーブルに伏せる。

もしや今、・・・電源を切ったのでは・・・。


「返さなくていいの?電話?メール?」

「急ぎじゃないし、後でいいよ」

「・・・

・・・さっきのひと、とか?


・・・いい人だったね。」


すごく仲が良さそうだった。

とは言えず、それでも
だいぶ思い切って切り出したのに、

遼平君はちょっと呆れた顔で私を見た。

「さっきのあれだけで?」

「あれだけって・・・」

「簡単に人を信じすぎ。」

「・・・だって、」

様子を察して誤解だって、教えてくれたし。


言い返せずに口ごもると、

遼平君が溜息まじりに
「・・・まあ、桜井は悪い奴じゃないけど」と、呟いて続けた。

「自分に都合のいい言葉ばかり聞いてると騙されるよ。


・・・・・・って、亮介に言っといて。」

「亮介に言うの!?」

いきなり場外へ飛んだ会話に素っ頓狂な声を上げると、

遼平君が、ちょっと笑った。


怒られてたはずなのに、それだけで嬉しい。


「そうだ遼平君、クリスマスに何か欲しいものある?」

「欲しいもの?」

「あ!特にないは、ナシだよ。」

はぐらかされそうなオウム返しに、
慌てて付け足す。

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