片恋
洗面所の鏡の前で、自分と向き合って
はあっと大きく息を吐きだす。
まだ、大丈夫。
今日こそは、気まずくならずに過ごすんだ。
・・・すでに低空飛行だけど。
「よしっ」
気合を入れ直してお手洗いを出た所で、
勢い余って思いっきり人にぶつかりかけた。
「わっ、イト子ちゃん」
「あっ、さっきの・・・」
驚いて見上げると、
その人が自分を指さして、にかっと笑う。
「タカハシ君。」
「・・・タカハシさん。あ、私、イト子じゃなくて琴子です」
「え、うそっ。イト子って聞いた気がしたけど」
「それは名前じゃなくて…」
話しながら席の方に目をやると、
遼平君が携帯を眺めているのが見えた。
・・・もう少し、ゆっくりして行った方がいいかな?
それとなく、
席から見えない位置まで下がる。
「あ、そうだ、遼平君の…お友達で、
タカハシさんも知ってますか?えーっと、…」
「ん?いやー俺、カオは広い方だけどさ、
直接関係ないと、どうかなぁ~?」
「桜井さんっていうんですけど。」
「桜井・・・?
あー、コンパの時あいつと途中で消えたのがそんな名前だったかな?
・・・って、遼平が自分でそいつのこと言ったの?」
コンパ?
消える?
意味はなんとなく分かるけれど、
聞き慣れない単語が、ぴんと来ない。