片恋
「そういうのよくないよ!」
「どうでもいい呼び出しだから、いいんだって」
「・・・どうでもいいって・・・」
それこそどうでもいいメールをしている私からしたら、
電話の相手が他人事に思えない。
「向こうは、そう思ってないかもしれないのに・・・」
弱々しく言い返すと、遼平君が溜息をつく。
「そっくり返すけど、
俺は琴子ちゃんに対して『そう思ってない』ってわからない?
琴子ちゃんにとっては
俺と今話すことより、電話の相手の方が大事なんだ。違う?」
「どうしてそんなっ・・・、そういうことじゃ、なくて」
何だか意図的に、ねじれて
とられてしまっている気がしてならない。
携帯はまだ、鳴動し続けている。
「・・・出てよ。」
「そんなのは、俺の勝手だろ。」
指図するなと、言外に言われる。
「・・・呼んでるよ」
じっと目を見つめて訴えると、
遼平君は諦めたように電話に出た。
「・・・はい。」
私から少し顔を背けて、言葉少なに相槌を打つ。
その様子にほっとしたのは束の間で、
手持無沙汰で、段々いたたまれなくなってくる。
私も遼平君の方を見ないように、
体の向きを斜めにして座り直す。
それから、空になったカップを手の中で転がした。
すぐに終わらせてくれると思ったのに、
とか勝手なことを思い始めてる自分に気が付いて、
ますます居心地が悪くなってくる。
嫌な自分に、飲み込まれそうだった。
とうとうじっとしてられなくて、
席を立とうとした所で、手を掴まれた。
視線で問いかけられて、「そろそろ帰るね」と小声で答える。
それを聞いて遼平君も立ち上がるのを、慌てて押し止めた。
「ひとりでいいからっ」
「いいわけないだろ。」
私の手を取ったまま
通話を切って、携帯を鞄に放る。
今の私は、彼と正面から向き合いたくないのに。
一刻も早く遼平君の前から立ち去りたい私は、
とっさに亮介の名前を口にした。
「あの、実はこの後、亮介に用があって・・・!」
口からでまかせだったけれど、
遼平君はあっさりと手を離した。
「そう、それならいい。」
結局、会計を済ませて一緒に店を出た所で
そのまま別れる。
私のわがままは全部かなったはずなのに、
ひとつも満たされた気がしなかった。