片恋
「ことこちゃんひさしぶりー。
おれのこと覚えてる?」
「え、シュウ君!?」
シュウ君は驚く私に構わず、
とりあげた片方のイヤホンを自分の耳にあてる。
「なにきいてんの?これ。英語?」
「遼平君の好きな曲。」
それを聞くとシュウ君は、
ちょっと顔を上げて私を見た。
「遼平くんが好きって言ってたの?」
「そうじゃないけど、持ってたアルバムでくれたから、
好きなアーティストなのかなって。」
「・・・それ、いらないからくれたんじゃないの?」
ガーン・・・ッ
冗談なのはわかるけど、だけど今は・・・!
「ひ、ひどいよシュウ君~!!泣いちゃうよ、私」
えーんと、泣き真似をしてみせると、
シュウ君は、からかうような笑顔をひっこめて
慌てて私の顔をのぞきこんだ。
「え、嘘だよ、ごめんっ、
ごめんね、ことこちゃん。
・・・ほんとに泣いちゃったっ・・・?」
「まっさかあ、嘘泣きだよ、嘘泣き~。」
べーっと舌を出して笑って見せたのに、
シュウ君は心配そうな顔のまま、
手を伸ばして私の目元をごしごしと拭った。
「どうしたの?ことこちゃん。
なんかあった?
なんか・・・うそ笑いしてるよ。」
途端に、
笑うことができなくなった。
唇が引きつって震え、
閉じることもままならない。
「おれに、話してみる?」
シュウ君の黒い瞳は、
とても綺麗に光をたたえていて、
見てるだけで、こころを溶かされていくような気がする。
「ーーー・・・っ、ぅえーーー」
私は、自分より背の低いシュウ君の小さな肩に腕を回して、
すがりつくようにして泣いた。