片恋

私が時間通りに来なかっただけなんだけど、けど・・・。

遼平君が迷惑そうな顔をしていたらと思うと怖くて俯くと、
見かねたように、亮介が口を開いた。

「や、俺も出るところだし、
シュウも出かけるって言ってたから
この家、誰もいなくなんだよ。」

視界をふさぐように立つ亮介の背中を見上げて、
気がついてそっと手を離す。

珍しく振り払われないので、
つかんだまま忘れていた。

「・・・連れてけば?
どーせ、ガッコウの知り合いの
なんちゃらかんちゃらだろ。」

亮介の言い方からすると、
大学の友達との約束なんだろう。

以前、何度か見かけた場面を思い返していると、

遼平君は呆れたような顔で、私と亮介を見た。

「そんな、連れてく奴なんかいないよ。
それじゃあ琴子ちゃん、最初の待ち合わせ場所に同じ時間でいいかな?
早く行けそうだったら連絡するから。」

「え、あ、あの、あの・・・!」

「うん、なに。」

ほんとにそのまま行ってしまいそうで慌てて口を挟むと、
遼平君は動きを止めて、私がしゃべりだすのを待つ。

「私も行く。」

「―――琴子ちゃん。」

少し驚いてから咎めるように口を開いた遼平君を、
私はとっさに遮った。


「あ、もちろん顔を出したりしないよ!
終わるまでどっかで待ってる!
大学の近くならカフェでもファミレスでもあるよね?」

彼が私を知り合いに見せようとしないことを思い出して、
必死になって言いつのるけれど、遼平君は、にべもない。

「それはだめ。」

「なんで!?」

思わず泣きそうになって声がひっくり返った所で、
ぶはっと亮介が吹き出した。

私と遼平君が同時に亮介を見ると、
それでもケラケラ笑っている。

「ほんっと、コトコに過保護だなー。
お前も、『ひとりでもイイコにしてられるもん!』くらい言ってやれ。」

最後は私に向かって憎たらしく口真似をして、

亮介の手が、
いつもの癖でヒラヒラと振れる。


大丈夫、気にすんな、平気平気、


その、視線を払うような手の動きにつられてつい頷くと、
一瞬だけ合わさった瞳は
有無を言わせず力強く笑っていて、

私は、言いたい事がわからないまま、

喉につかえた言葉を飲み込む。


「じゃー、俺そろそろ出掛けるわ。
どーぞ楽しんでらっさい(笑)」


亮介が安心したように、白い歯をのぞかせて笑った。

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