片恋
「・・・ひ、ひとりで、いいこにしてられる、・・・よ」
なんとなく二人して亮介を見送ってしまってから、
おずおずと亮介の言った冗談を口にしてみると、
遼平君は笑わずに、遠くを眺めたまま口を開いた。
「いいの?行っちゃうよ。」
「え?」
さりげない問いかけに、
意味がわからず見返すけれど、
たずねていながら
彼は私を、見ようとしない。
「あいつこそ、連れてけばいいのにな。」
一瞬、
何を言われたのか、わからなかった。
可笑しそうに笑っている遼平君の声が、
ここにいる私をみるみる場違いなものにする。
遼平君は私の表情に気がつくと、
ただ真っ直ぐに私を見た。
「それで、琴子ちゃんはどうするの?」
「一緒に、行く。」
遼平君が、溜息をついた。
「琴子ちゃん。」
私はますます泣きたくなって、一生懸命に訴えるけれど
上手に彼を動かす言葉は、なにひとつ思いつかない。
「ほんとに、ほんとに邪魔したりしないよ、
遼平君が私といる所を誰かに見られるのが嫌なの、分かるつもりだし、
近くにいるだけ、
待ってるだけ、だから、
だから、・・・」
表情を変えず黙ったままの遼平君と目が合って、
思わずうつむく。
「・・・だって、・・・だめなんだよ、だめなの、」
「何が?」
「わ、わかんない、けど・・・」
だめなの、
だめなの、とだけ繰り返すたび、
しらけた空気が漂っていくのに
気づいていながら、止められない。
いつまでも進まない会話に遼平君は、
疲れて困って、もてあましている。
「だって、
だって、
・・・誰と会うの?」
口をついて出た、思ってもみなかった言葉に、
自分で引いた。
ハッとして口を押さえ、青ざめる。
「ご、ごめんなさい、その、変な意味じゃ、なくてっ、」
慌てて謝りながら、遼平君の顔を見るのが怖くて、
うついたままぎゅっと目をつぶった。
「珍しいことを聞くなあ。どうしたの急に。」
――今まで、気にしたことなんてなかったくせに。
言われてもない言葉に一人でギクリとして
おそるおそる顔を上げると、
遼平君は、特に気にした風でもなく「誰といわれてもなあ」と呟いた。
「大学で授業が一緒の友人だよ。
どうせ大した用じゃないけど、呼ばれたから一応。
・・・車だけど。」
最後はダメ押しのように付け足しながら、
どこか言いにくそうな顔で私を見た。
「平気!車に弱いのなんて昔の話だし!
それなら中で待ってられるよ、いいでしょう!?」