片恋


「・・・なかなか、しぶといなあ」

頭の上で、なんだか楽しそうに遼平君が言う。


「早く亮介を呼べばいいのに。あの時みたいに」

「・・・あの時?」


何も思い当たらない私は、
そっと顔を上げて遼平君を見た。

目が合うと静かに微笑んでいたけれど、
遼平君は、答えない。


今しかない、と思った。


今を逃したら、なにか大事なことが、

永久にすり抜けていくような気がした。


「遼平君・・・?」

体を起こして向かい合うと、
目をそらさずに、彼を見つめた。

遼平君の瞳に、映るもの。



「・・・とりあえず、出ようか。」

遼平君は暫く見つめ返した後、
不意に視線を外して、車から降りた。


つかみそこねた何かが、
目の前で為すすべもなく過ぎ去っていく。


私は促されて車から降りながら、
抑えきれないほどの焦燥感に駆られていた。

覚えのある感情に、記憶がかすめる。


『亮介なんか、もうしらない』


頭の中で、
子供ぶって甘えた、耳障りな声がした。


『亮介がいなくなったって、
私は別に、へいきなんだ。
だって』

『だって、私がすきなのは、
遼平君だから。』


―――・・・



「・・・まだ、気分悪い?

少しうちで休んでるといいよ。
亮介はああ言ったけど、どうせ周平が家にいるし・・・」

何事もなかったかのように家の方を振り返って話す遼平君の
腕をつかんで、遮った。


「・・・私が悪いんだよ、

私が誤解させるようなことを言ったから・・・」


かろうじて呟いた言葉は、
絶望感で満ちていた。

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