片恋
逃げ出したい気持ちをこらえて遼平君の瞳を見つめ、
振り絞るようにして後悔を口走る。
「私は間違えたんだ。
あんな時に好きだと言ってはいけなかった。
あの時、亮介が離れてしまって寂しくてすがりついた、
そう思われても仕方なかった・・・っ
だけど、だけどねっ、・・・」
気持ちがこみ上げて、喉につかえる。
続く言葉がどうしても出てこない。
青くなって言うべきことを探していると、
黙って聞いていた遼平君が、おもむろに口を開いた。
「何だ、そんなこと思ってたのか。」
心底、意外そうな顔で私を見返す。
「あんなのただ、亮介の気を引きたかっただけだろ。」
「――・・・そんな、」
そうじゃ、ない、と、
たった今した私の弁解は、
全く意味を成さずに消えていた。
もっと前。
もっとずっと前から。
彼は私の言葉など、信じてなかった。
そのことに思い当たった瞬間、
衝撃と同時に何もかもを理解した。
目の前が急速に、ひらけていく。
ずっとずっと、遼平君が怖くて仕方がなかったのは、
全てを見透かされてる気がしたからだ。
最初から。
私が何を言おうと、何をしようと、
この人は惑わされない。
「・・・それなら、なんで、婚約なんて」
私が知らない、私の本音を知っている。
「琴子ちゃんと亮介が、一緒にいられるように」
―――どうしてだろう。
ちいさな子の、おいのりみたいに響いた。