片恋

【記憶 四】



【記憶 四】


遼平・八歳

琴子・四歳 



「きゃーーはっはっは!」

背の高い青年に抱えられて、上に下に横に、
ぶんぶんと勢いよく振り回される。

こんな、男の子にするような扱いを
受けたことがなかった琴子は、楽しくてしょうがない。

「・・・琴子。その笑い方、コワい」

呆れて眺めていた遼平に、彼がぼそりと声をかける。

「お前も、やる?」

「ぎゃーーっ、いい!いい!俺はいいって!!」

年齢の割には背の高い遼平を、あっという間に抱えあげて振り回す。

ぎゃはははは!!という笑い声に「遼平が壊れた」と、彼が呟く。

普段からこれくらい思い切って接してくれれば、
遼平も相応に、子供らしくふるまえるのに。

人が苦手な彼は、子供相手でも萎縮してしまうような所があって、

遼平にとっては「よく言えば」気を使わなくて済む大人だった。


「あら遼平君、来てたの?
二人とも、休憩の邪魔しちゃだめよ。

あなた達にもおやつを出してあげるから、
中に入ってなさい。」

庭に顔を出した琴子の母は、
うろたえながら頭を下げる植木屋の彼に、湯呑を手渡す。

「はーい」と行儀良く答えて母屋に向かいながら、
遼平は笑いを誤魔化して琴子を見た。

琴子の母が近づくと、
はっきりわかるほどに動揺する彼がおかしかったのだ。

「梶(カジ)君て、唄子(ウタコ)さんに緊張しすぎだよな」

琴子はただ、遼平がこっちを見て笑ってるのが嬉しくて、

意味も分からず「うん!」と笑った。


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